淵上正幸の日々建築漬け
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建築ジャーナリストの日記
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120518 東欧建築探検ツアー2

ウィーンは僕にとって、パリ、ロンドン、東京、NYを凌ぐ
最も好きな都市のひとつである。
世紀末のデカダンが、今なおそこはかとなく漂い、
街灯がにぶく光る夜更けの路地から、
映画『第三の男』のオーソン・ウェルズや
ジョセフ・コットンの足音が聞こえてくるような、
そんな幻想に浸れる街のたたずまいが魅力だ。
走馬灯のように流れ行く無数の光芒の背後にウィーンの哀愁が潜んでいる。

自室から見た夜更けの「サント・シュテファン寺院」と光輝く街並み


前日ブルノ建築見学後、レストランで夕食をゆっくり楽しんだために、
「ソフィテル・ウィーン」に着いたのが、またもや夜中の1時半だった。
ジャン・ヌーヴェルの「ソフィテル」は、ロビーや18階のレストランやバーの天井に、
バックライト付の巨大な絵画的イメージをあしらった度肝を抜くような演出! 
ロビーなどはキャノピーの軒天にまでも絵柄が張り出し、目立つこと甚だしい。
さらに自分の部屋に入ると、インテリア・デザインが斬新!
カーテンの替わりに4枚の板戸を引くとか。
キャンティレバーの机と椅子があったり。
洗面、バスタブ、シャワーが居室部分と一体のワンルームになったりと、
ヌーヴェルは常に新しいことを工夫する。
バスタブの縁がすごく広いのでウィスキーの水割りとつまみを置き、
部屋のほぼ中央に位置する開放的なお風呂につかって
夜更けのバス・タイムを楽しんだ。

ロビーの天井のイメージが外部の軒天にも延長されている(左)
バスタブが部屋のほぼ中央にあるような配置(右)


夜更けのバス・タイム。シャンプーやリンスなどすべてエルメス


ウィーンの初日はまずオットー・ワーグナーの「郵便貯金局」。
当時の先端建築の最右翼だ。
光天井やメタリックなインテリア装備品は、
同時時代の他者をはるかに凌駕したデザインであった。
その後はウィーン中央部にある「ゼセッション」「マジョリカ・ハウス」
「アルベルティーナ美術館」「ロース・ハウス」「レッティろうそく店」(現在は別名)
「シューリン宝石店2&1」「クニッツェ紳士用品店」「ハース・ハウス」
「アメリカン・バー」「ライス・バー」を回り、「アルベルティーナ」1階のレストランで昼食。

オットー・ワーグナーの先端建築「郵便貯金局」(左)
同じくワーグナーの分離派の牙城「ゼセッション」(右)


華麗なワーグナーの「マジョリカ・ハウス」(左)
ハンス・ホラインの「アルベルティーナ美術館」の長い庇(右)


当時酷評されたアドルフ・ロースの「ロース・ハウス」(左)
今なおハンス・ホラインの代表作のひとつ「レッティろうそく店」(右)



午後もスピードで見学を展開。「フンデルトワッサー・ハウス」を皮切りに、
続いてこの日の圧巻、哲学者のヴィトゲンシュタイン設計の「ストンボロー邸」。
これは事前の見学願いは断られていたが、外観を見学中、
ガイドのベートーベンに似ている倉永さんがインターホンを押して
管理人と話したところ、見学がOKとなるサプライズ。
繊細な縦長のウィンド・デザインに秘められた哲学者の、
装飾を排したクールな精神性が素晴らしかった。
磯崎(新)さんが気に入るのも分かる。
続いて「ガゾメーター改修」、そしてコープ・ヒンメルブラウ事務所を訪問。
ウルフD.プリックスはご機嫌で僕たちを迎えてくれた。
ウィーンの夜は、僕の定番コースであるアドルフ・ロースの「アメリカン・バー」と、
コープ・ヒンメルブラウの「ライス・バー」を梯子した。

フリーデンシュライヒ・フンデルトワッサーの観光化した集合住宅(左)
ロースの「アメリカン・バー」は僕の大好きなウィスキー空間(右)


見学が難しいルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインの「ストンボロー邸」(左)
「ストンボロー邸」の精妙な縦長の開口部デザイン(右)



翌日は「ソフィテル」内の会議室を見学した後、「新ウィーン見本市会場」
「ヴァグラマー通り集合住宅」「クリスタス教会」「リマイズ集合住宅」
「ミレニアム・タワー」「カール・マルクス・ホフ」「ウィーン・ミュージアム地区」を見学。
そしてこの日のメインは、郊外にあるワーグナーの「シュタインホーフ教会」。
これも見学は月曜日だけなのに、我らがベートーベンこと、ガイドの倉永さんが、
友達が管理しているということから、電話一発でオーケーとなるサプライズ!
僕は次回からウィーンのガイドは、哲学者でもある倉永さんに頼みたい!
この後ワーグナーの「ヴィラ」を2件見てから中心部へ戻り、
「ヴィンバーガー通り集合住宅」「ウィーン中央銀行」を見てからホテルへ。

丸窓が可愛いハインツ・テサールの「クリスタス教会」(左)
長さ1kmもあるカール・エーンの集合住宅「カール・マルクス・ホフ」(右)


精神病院の教会として建てられた「シュタインホーフ教会」(左)
ユーゲントシュティール様式で華麗なインテリア(右)


ワーグナーの「ヴィラ」のひとつ


夜は「ソフィテル」18階のレストランで、美しい夜景を見ながらのサヨナラ・パーティ。
アウヴィダゼーン・ヴィーン!(さらば、ウィーン!)

暮れなずむ「サント・シュテファン寺院」とウィーンの街



Photos&text : Masayuki Fuchigami / Synectics inc.
# by archieditor | 2012-05-18 09:07 | Trackback
20120511 東欧建築探検ツアー1: プラハ&ブルノ
海外建築ツアーの醍醐味は、異なる国の文化、
建築、都市、生活などを、ダイレクトに味わうことにある。
東欧はそういった内容には格好のターゲットエリアであった。
プラハ、ブルノ、ウィーンと回ったが、成田ですでに3時間遅れのスタートを切ったために、
ウィーン経由でプラハへのフライトがなく、強引にバスで5時間かけてプラハへと突っ走った!
夜中の1時半頃、モーベンピック・ホテルに到着。
プラハといえば、スメタナの世界的な名曲、交響詩「わが祖国」で知られた
悠久の大河「モルダウ」、それにかかるカレル橋、その背後のプラハ城など、
屈指の観光スポットが多く街並みの美しさでは定評がある。

プラハ城を背景にカレル橋をくぐり、滔々と流れる大河モルダウ


翌日からは、ツアーに同行した古谷誠章氏の知人である現地のスラペタ教授が、
プラハやブルノを案内してくれたので大助かりだった。
朝一はアドルフ・ロースの代表作「ミューラー邸」。
“ラウムプラン”で知られたこの豪邸は、閑静な高台にある住宅地の端部に立ち、
プラハ城や市街を見晴らす一等地にある。
黄色を窓にあしらった外観を承知で、僕は黄色のセーター着ていくと、
スラペタ教授の友人であるレナータ・ホチェルバー女史が黄色のマフラーを身につけてきた。
意気投合して庭の黄色のベンチでツーショット。
だが美人の彼女に肩を抱かれて僕は上がってしまった!記念的な写真だ!
この後「ガーデン・シティ・オレチョフカ」「プラハ工科大学建築学科」「プラハ城」
「プラハ城オランジュリー」「カフカの家」「カレル橋」「プラハ旧市街広場」その他を見学。

黄色を窓枠にあしらった「ミューラー邸」外観(左)
黄色三拍子の揃い踏みだったが、シャイな僕(?)の目はあらぬ方向へ(右)


アレナ・スラムコヴァ設計の「プラハ工科大学建築学科」(左)
エヴァ・ジリクナ設計の「プラハ城オランジュリー」(右)



プラハは言わずと知れたキュービズム建築でも有名だ。
有名なヨゼフ・ゴチャールの「黒衣のマドンナの家」を初め、
ヨゼフ・ホホルの3部作「リブシナ通りのヴィラ」「トリプレックス・ファミリー・ハウス」
「ネクラノヴァ通りのアパートメント」などは、チェコ・キュビズム建築の代表作。
このあと見学したフランク・ゲーリィの「ネーデルランデン・ビル」だけが、
キュビズム建築とは異なる佇まいだった。

「黒衣のマドンナの家」は現在デパートのようだ(左)
「リブシナ通りのヴィラ」(右)


「ネクラノヴァ通りのアパートメント」(左)
「ナショナル・ネーデルランデン・ビル」は別名「ダンス・ハウス」(右)



翌朝は、ヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン天使の詩」を
ジャン・ヌーヴェルがテーマにした「プラハ・アンデル」を見学して、一路ブルノへ。
途中世界遺産の歴史都市テルチの街を見学。
湖の景色、街の広場、16世紀の城の庭など美しいものばかり。
ブルノでは、ブルノ機能主義建築の代表選手、ボスフラフ・フックスの作品が多い。
「ホテル・アヴィオン」「モラヴィア 銀行」(ヴィーズネルと協働)に加えて、
僕も初めての「アーケード・アルファ」は、一種のパッサージュで面白かった。
エルンスト・ヴィースネルの「ヴィラ・スティアスニー」は当地では最大のヴィラで、
トゥーゲンハット氏が自邸建設の参考にと見学に来たが、
彼はヴィーズネルに頼まなかった。
「スティアスニー」の様式がかった大振りなつくりは、
ミースの「Less is more」の美学には遠く及ばないからだ。

「プラハ・アンデル」のコーナー部にはブルーノ・ガンツの天使像が(左)
テルチのアーケードがある可愛らしい街並み(右)


フックスとヴィーズネルのブルノ機能主義建築の代表作「モラヴィア銀行」(左)
「ヴィラ・スティアスニー」のエントランス正面(右)



さて「トゥーゲンハット邸」は、改修をしたために真新しくて、
すでに2回訪れている僕にとってはちょっと興ざめな感じ。
最も白けたのは、居間のガラス窓が地下に下がってオープンになる仕掛けに、
係員がリモコンを使ったのだ。
これには墓の下のミースもさぞや驚いたことだろう。
ひとつ新しい発見をしたのは、この家にはゲストルームがないので、
ちょうど居間から見える正面の丘にゲストルームを建て、
そこへ来客はディナーの後車で送ってもらったそうだ。
これはまたカッコイイ接待の仕方だなと感服した次第である。

「トゥゲンハット邸」極めつけの美しいアングル(左)
窓を落として開放した居間。正面の丘にゲストルームがある(右)


十字形柱のアップに自分が映りこんでいる(左)
トラヴァーチン製階段のディテール(右)



(東欧建築探検ツアー2へと続く)

Photos&text : Masayuki Fuchigami / Synectics inc.
# by archieditor | 2012-05-11 07:29 | Tour | Trackback
120424 天工人設計の超ローコスト「House 555」見学記

「House 555」
設計:アトリエ天工人(山下保博)

4月1日の日曜日、アトリエ・天工人の山下保博さんのオープンハウス、
「House 555」を見学に行った。
JR埼京線・十条駅は僕にとって初めての体験駅。
ステーション・フロントにはロータリーがあって、駅前が明るく開けている。
わが吉祥寺のJRと井の頭線の公園側出口とは段違の差。
この駅前広場から右手方向に入っていくと十条銀座商店街。
近年大型店舗の出現で、この手の個人店舗が密集した商店が消えていく昨今、
何か懐かしい感じで彷徨した。

十条駅前広場のロータリー(左)  十条銀座の商店街(右)


商店街の途中から抜けた路地を行くと、小住宅が密集した角地に、
「House 555」はシャープな細身の形態ですくっと立ち上がっていた。
オープンハウスの案内を読むと、“建坪5.5坪の5層のイエ”とある。
建築面積が18.31m2と極小な建物ながら、
山下さんは木造2階建てのマッスにスキップ・フロアで5層を獲得し、
総工費1,650万円で収める強か者。
若い夫婦と幼児という3人家族の数ある機能空間を、
1層ずつ取ってはすべてが納まらない。
そこでスキップ・フロアを採用して巧みな垂直的な配置をおこなった。
垂直動線は円形のスパイラル階段。
これが真っ白なインテリア全階を貫き、空気の流れに加えて
導入される自然光を満遍なく全階に行き渡らせる優れ者だ。
さらにスリット状の開口部を巧みに配して自然光を取り込んでいる。

密集した路地から白亜の「House 555」が顔を出している(左)
シャープなコーナー側外観見上げ(右)


建て込んだ住宅街のコーナー側からの全景(左)
光の拡散装置ともなるスパイラル階段(右)



まず1層目は玄関と3.1帖の寝室、それに4帖の納戸&クローゼット。
寝室は超小だが、今の家族構成ならオーケーだ。
2層目にはキッチンがあり、3層目の吹き抜けたリビングとスキップしている。
階高3.45mもある吹き抜けたリビングは、
キッチンと連続しているため視覚的な広さを感じる。
キッチンの上部に4層目のトイレ・洗面室・浴室がある。
5層目はロフトで本棚やカウンターがある書斎的な空間。
天井高は1.4mと低いが、将来の子供室になるのだろう。
当日赤ちゃんを抱いた奥さんに聞くと、
「清潔感のある白い空間と、狭いながらも垂直方向に変化があって
非常に気に入っている」とのことだった。

玄関を入ると正面奥に寝室、右手の下駄箱の裏側に納戸がある(左)
リビングからキッチンを見る(右)


リビングは階段からの光や、正面奥両サイドのスリットで明るい(左)
正面に本棚、左手にカウンターのあるロフト空間(右)



ところで天工人(テクト)の山下さんといえば、
3.11では「モバイル・すまいる」プロジェクトという便利な移動式住居を開発して、
いち早く復興支援活動を展開した建築家だ。
その彼が先日作品集を送ってくれた。
見ると背表紙部分がなく、綴じ糸が丸見えの本。
安価にするための台湾出版社の苦肉の策。でも中身はリッチだ。
僕に言わせれば、山下保博なる建築家はパワー・ファイター。
やる気満々でいろいろな材料や構造にチャレンジする。
バラエティに富む彼の代表作がぎっしり詰まっている作品集。
ご覧あれ!

災害地まで引っ張っていける「モバイル・すまいる」プロジェクト©Tekuto (左)
『Listen to the Materials』(材料に聞け!)とはいかしたタイトルだ(右)




Photos except as noted: ©Synectics. (写真は特記以外©シネクティックス)
text : Masayuki Fuchigami / Synectics inc.
# by archieditor | 2012-04-24 07:05 | Open House | Trackback
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